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大阪地方裁判所 平成4年(わ)3604号 判決 1993年2月25日

本籍

大阪市中央区高津二丁目一八番地の二

住居

兵庫県尼崎市南武庫之荘五丁目一六番二二号 メゾン武庫之荘四〇三号室

塗装工

太田幹夫

昭和一九年八月六日生

主文

被告人を懲役一年に処する。

この裁判確定の日から三年間刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、延喜堂有限会社(以下「延喜堂」という。)の取締役であったものであるが、大阪市中央区船場中央三丁目一番七-二一七号に本店を置き、婦人服卸売業及び飲食業等を目的とする資本金二〇〇〇万円の株式会社マツバヤ(以下「マツバヤ」という。)の代表取締役として業務全般を統括している木田茂、更に福永浩らと共謀して、マツバヤの法人税を免れようと企て、マツバヤ所有の土地及びその地上建物を一括して株式会社日建企画に二六億六四〇九万円で売却した取引について、この土地建物を延喜堂に一七億七七五万円で売却したように仮装して固定資産売却益を圧縮するなどの方法により所得の一部を秘匿して、昭和六三年三月一日から平成元年二月二八日までの事業年度における実際の所得金額が一一億五七七八万五三四九円あった(別紙修正損益計算書参照)のに、同年四月二八日、大阪市中央区大手前一丁目五番六三号大阪合同庁舎第三号館の所轄東税務署において、同税務署長に対し、マツバヤの所得金額が一億五二五四万五三九四円で、これに対する法人税額が五九八九万一九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出した。そして、そのまま法定の納期限を経過させた結果、この事業年度における正規の法人税額四億八二〇九万二七〇〇円との差額四億二二二〇万八〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れた。

(証拠)

(注)括弧内の漢数字は、証拠等関係カード検察官請求分の請求番号を示す。

1  被告人の

(1)  公判供述

(2)  検察官調書(一四〇、一四二から一四四)

2  木田道子(四〇)、堀後伸司(四九、五〇)、山中順蔵(五七)、山﨑平三郎(六〇から六三)、福永浩(六七、六八)、登島政仁(七一)、脇坂重敏(七五)、中山登(七七)、呉昇哲(七九)、奥田繁一(八〇)、木田茂(一三〇から一三三)の検察官調書

3  工藤明(二四)、桑原豊太郎(二六、二八)、澄田和義(三三)、堀田勝弘(三四)、山本恵治(三五)、魚住一郎(三六)、前村義博(三八)、野村寿親(三九)、北澤孝友(四一)、石川昌彦(四四)、長谷部孝幸(四五)、西田好孝(六四)の質問てん末書

4  菊川和博(二五)、鬼塚和弘(三七)作成の確認書

5  査察官調査書(四から一〇、一二から一四、一六から一九、八一)

6  調査報告書(一二八)

7  捜査報告書(三)

8  証明書(二)

9  法人登記簿謄本(一一九、一二六〔閉鎖分〕、一二七〔閉鎖分〕)

(法令の適用)

一  罪条

刑法六〇条、六五条一項、法人税法一五九条一項

二  刑種の選択 懲役刑

三  刑の執行猶予 刑法二五条一項

(量刑事情)

本件は、被告人が、マツバヤがその所有不動産を株式日建企画に対して、二六億六四〇九万円で売却した取引について、藤波登こと登島政仁、福永浩らを通じて、マツバヤの代表取締役である共犯者木田茂の依頼を受けて、自分が経営していた延喜堂に売却したように仮装して固定資産売却益九億五六三四万円を圧縮するなどして、マツバヤの法人税約四億二二二〇万円を脱税させたという法人税法違反の事案であるが、脱税額が巨額であるばかりか、脱税率も約八七・六パーセントと極めて高く、納税義務に著しく違反する悪質な脱税行為である。そして、その態様は、国税局の査察が入ることを始めから予想して、わざわざ債務超過状態にある会社をダミー会社として利用するという巧妙な計画犯行である。さらに、被告人は、本件脱税に関して、共犯者木田から、謝礼として、約二六九四万円を受け取っているなどの事情も考慮すると、被告人の犯情は悪く、実刑に処することも十分に考えられるところである。

しかし他方、被告人は、共犯者らの依頼に基づき犯行に加わったもので、具体的脱税方法の計画立案、仮装の売買契約書の作成等の具体的脱税工作における被告人の役割は、他の共犯者の指示に従うだけという従属的なものに過ぎない。また、利得を得るために脱税に協力するという動機に酌量の余地はないが、当時の被告人の経済的状況として、延喜堂の経営が苦しく、多額の負債の返済に追われていた事情があり、この点は考慮すべき余地がある。更に、被告人が法廷で真摯な反省の態度を示していることや、知人の協力を得て今後の更生が期待できること、現在も多額の負債を抱えていること等被告人のために酌むべき事情も認められる。

そこで、これらの事情を総合考慮して、主文のとおり懲役刑に処したうえ、今回はその執行を猶予することにした。

(出席した検察官宮下準二、弁護人谷口光雄)

(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 竹田隆 裁判官 平島正道)

別紙 修正損益計算書

<省略>

税額計算書

<省略>

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